建設中の温室鉄骨
建設中の温室鉄骨
淡路島の大型温室ファームパークは,高い湿度にもたえられるよう鉄骨にはすべて溶融亜鉛めっきが行われています。

100年に近い使用実績のある溶融亜鉛めっき法は,人間生息環境下での信頼性の高い防食能が認識され,近年とくに使用分野が拡大している。
コンクリート構造物の塩害などによって起こる,早期劣化の防止対策としての溶融亜鉛めっき鉄筋の使用も新分野の一つである。
確かにこの方法は最も簡便で,通常の設計基準,施工方法のままで良く,その上メンテナンスフリーのコンクリート最大の特色を損なわない優れた防食対策である。
しかし塩分を含むコンクリート中での溶融亜鉛めっき鉄筋の挙動に関しては,一定した結論になっておらず,なかには亜鉛皮膜の寿命はコンクリートの寿命に比し効果的とは言い難いという意見もある。
亜鉛めっき鋼材の大部分が使用されている大気中での耐食性については,長期の経験と多数の暴露試験などで耐用寿命の推定がかなりの確度で可能になっている。
大気中と異なり,腐食環境としてのコンクリートは複合材料であり,水分や酸素の浸透拡散が複雑であり,未解明の部分も多い。しかし最近は研究や実際的な暴露試験もかなり行われているので,それらの資料を参考にして,コンクリート内での溶融亜鉛めっき鉄筋の腐食の概要について述べる。
コンクリート中の亜鉛めっき鉄筋の耐食性に最も大きい影響を与える要因は塩分含有量である。
標準的な品質のコンクリート中では,少量の塩分が混入または侵入しても亜鉛皮膜は優れた耐食性を示すが,塩分量がある限界値を超えると亜鉛皮膜に孔食を生じ,長期の耐食寿命を期待できなくなる。
このような現象が亜鉛めっき鉄筋の評価を混乱させている主な原因である。
発表されている亜鉛めっき鉄筋コンクリートの暴露試験報告書より,亜鉛皮膜が異状腐食を起こす塩分濃度限界値を推定すると,概略的には表1のようになる。

表1 亜鉛めっき鉄筋,通常鉄筋の使用可能な塩分含有限界値
不動態領域 使用可能 低腐食領域
溶融亜鉛めっき鉄筋 0.1 %以下 0.3 %以下
通常の鉄筋 0.014%以下 0.034%以下

(塩分含有%はコンクリートにたいするNaCl換算重量%)

備考
通常鉄筋での府動態領域の塩分は,細骨材中の塩分許容量0.04%,また低腐食領域は0.1%よりコンクリート中に換算した。

表1より,通常鉄筋の場合はコンクリート中の塩分濃度が0.034%を超えると鉄筋が発錆し,コンクリートがひび割れ,崩落を超こす可能性が増大するが,溶融亜鉛めっき鉄筋では0.3%程度までは劣化原因を生じる恐れはない。
この塩分限界値は昭和60年7月日本建築学会関東支部研究報告会での東大岸谷教授,建築研究所樫野氏他による報告「亜鉛メッキした鉄筋コンクリートの自然暴露試験」によっても容認される値であると思う。この報告は13年間普通地区に暴露した,塩分を混入したものを含む各種コンクリート試験体の調査結果である。結果より,かぶり20mmの鉄筋全表面についての腐食面積率の平均値を計算し表2にしめす。

表2 鉄筋全表面の腐食面積率測定結果
標準調合 貧調合 富調合 CaCl2混入 人工海水混練
水セメント比% 58 65 45 58 57
塩分含有量% 0.27 0.34
腐食面 通常鉄筋 4 29 5 49 49
積率% 亜鉛めっき鉄筋 0 0 0 0 0.4

備考

  1. 塩分含有量は試験体の実測値,コンクリートにたいするNaCl換算重量%
  2. 通常鉄筋のCaCl2,海水混入のものは幅1mm程度のひび割れが鉄筋にそって発生していた。
  3. 海水混入で亜鉛めっき鉄筋のものは散在孔食形態の部分があった。

実際のコンクリート構造物の塩分含有量は,海岸近くの構造物で飛散する海水飛沫にさらされる頻度の高い場所では1%を超すものがある。しかし直接海水飛沫を受けない場所では,特異地形を除き,かぶり40mm程度付近では長期共用後も0.3%を超さないようである。このようなデータを参考にし,かなり安全サイドで考えても,海岸線より100m程度以上離れた場所であれば,通常品質のコンクリート構造物で,かぶり40mmでの亜鉛めっき鉄筋は長期に腐食を生じることはない。
コンクリート中のアルカリによる亜鉛の溶解については,寿命に影響を及ぼさないと言うのが実状である。
多数の亜鉛めっき鋼材を基礎材としてコンクリートに埋め込んで使用しているが,これらの皮膜が異状腐食を起こしたという実例を聞かない。また亜鉛めっき鉄筋コンクリートの耐食試験や付着力試験などで多数の試験体が破壊観察されているが,異状腐食は報告されていない。ただ稀に鉄筋に接するコンクリート表面に1~2mmの小気泡が発生する時がある。これはコンクリートペーストのアルカリと亜鉛の反応による水素によるものであるがこの反応もコンクリート硬化後は停止して進行することはない。このような現象はコンクリート中では亜鉛表面に拡散してくるアルカリしか反応に関与できず,その上反応生成物である亜鉛酸カルシウムが以降の拡散障壁となり,アルカリ溶解を抑止するためであろう。