川崎市入江崎処理場
川崎市入江崎処理場

1.はじめに

土木,建築その他の構造物に広く使用されているSS,SMおよびSN材などの鋼材は,溶融亜鉛めっきされても,機械的強度変化が殆どないことが実験的にも確かめられている。
すなわち,一般鋼材は溶融亜鉛めっきされても脆化を受けることはない。
しかし,これらの鋼材でも冷間(常温)で苛酷な曲げ加工をされ,そのままの状態で溶融亜鉛めっきされると脆化を受けることがある。これは「液体金属脆化現象」といわれ,あるレベル以上の引っ張り応力下で個体金属が特定の液体金属に接すると脆化を受けるものである。
冷間加工等で生じた引っ張り応力が存在すると,結晶粒界割れを起こし易くなるという現象である。このような例として,大型角パイプ(コラム柱)のコーナー部分又は丸棒やフラットバーなどを柱のステップにするために,苛酷な冷間曲げ加工をされた場合,溶融亜鉛めっきすることによって鋼材の割れが発生することがある。その場合,破断面は全く引っ張りを伴わないため,特有な灰色の脆性破面を呈している。
亜鉛脆化による割れには溶接熱影響部(HAZ)などもあるが,本パンフレットでは冷間曲げ加工に絞って解説する。
従来,冷間曲げ加工の曲率については,材厚さの3倍の半径か直径かいずれかの記述になっているのが一般的である。曲げ基準については明確に示したものはほとんどなく,その中で唯一記述のある規格としてASTM-A143があります。すべての文献はこれをよりどころにしていると考えられる。

2.ASTM-A143「溶融亜鉛めっき構造用製品の脆化防止と脆化検査方法」(抜粋)

(1)適用範囲

この規格は製作された鋼を溶融亜鉛めっきする場合,生ずるかも知れない脆化を防ぐ方法及び脆化を調べるための試験方法について定めている。
製作条件によって,鋼中に脆化を引き起こす要因があれば溶融亜鉛めっきによって加速されることがある。
しかしながら,適正な製作方法およびめっき加工が行われた場合は,一般に溶融亜鉛めっきによって脆化を生ずるものではない。

(2)定 義

脆化:鋼の延性が減少し,脆化した鋼が破壊する場合の特徴としては,少しの変形もしないで破断してしまうこと。

通常,溶融亜鉛めっき鋼に生ずる脆化の種類は,時効現象,冷間加工及び水素吸蔵に関係している。

(3)脆化の要因

i)鋼の脆化又は延性の減少は歪-時効に関連していることがよくある。
歪-時効は延性と衝撃抵抗の減少を生ずるものであり,冷間加工によって誘発された歪の結果として,感受性の強くなった鋼に生ずる。
時効は室温で徐々に進行するが,時効温度が上昇すると加速的に進行するので,約455℃のめっき浴温では急速に進行するであろう。

ii)水素脆性は鋼の水素原子の吸蔵によって生ずる。
水素脆性の感受性は鋼の種類,熱処理及び冷間加工の度合いによって影響を受ける。
溶融亜鉛めっき鋼の場合には,めっき前の酸洗反応時に水素の吸蔵が起こる。しかしながら,鋼中に吸成された水素はめっき浴中で加熱される際に部分的に放出される。|
実際に溶融亜鉛めっき鋼の水素脆化性は,通常鋼材の引張強さとして約1100MPa(約112kg/mm2)を越える場合,又は酸洗前に苛酷な冷間加工をされている場合のみに関係するものである。

iii)冷間加工をされた鋼の延性の減少は,鋼の種類(強度レベル,時効特性)鋼の厚さ及び冷間加工の程度等を含む多くの要因によるものであり,ノッチ,穴,小径の縁部,鋭い曲げ等で生じるような応力集中のある部分で顕著である。

(4)鋼

溶融亜鉛めっきには,平炉鋼,塩基性-酸素上吹転炉鋼及び電気炉鋼を使用しなければならない。

(5)冷間加工及び熱処理

i)中間寸法及び肉厚の厚い鋼板及び架線金物に対する冷間曲げ半径は規格又は精鋼会社の仕様によって安全であると確証された値を越えてはならない。
この基準は一般に結晶の方向,強度及び鋼種によって変わる。
冷間曲げ半径が肉厚の3倍以上である場合は,通常最終製品においてもその性質は変わらない。
通常,薄肉材に関しては鋭い冷間曲げ加工にも耐えられるが,特に苛酷な冷間曲げ加工をした場合には脆化を受けることもある。
もし,設計上ここに述べたよりも鋭い曲げ加工を必要とする場合,熱間加工,冷間加工にかかわらず,加工後焼鈍するか又は5.iii)に述べる要領で応力を除去しなければならない。

ii)肉厚1/4″(6.35mm)以内の小さな形鋼の場合は,打抜きによる冷間加工後,焼鈍又は応力の除去は行わなくてもよい。肉厚5/16″~11/16″(7.94~17.46mm)の形鋼では冷間打抜き加工を行っても,その加工がよく管理されている工場で行われるならば,使用上大きな影響はない。
肉厚3/4″(19.05mm)以上のものは打抜き後,その穴の周辺を少なくとも1/16″(1.59mm)リーマー又はドリルによって削り取るか又は5.iii)にのべるようにめっき前に熱処理を施さなければならない。

iii)5.i)及び5.ii)に概説した原則に従った加工品の場合は,通常熱処理を必要としない。しかし,もし熱処理を必要とする場合は,溶融亜鉛めっきに先立って適正な熱処理をしなければならない。
冷間圧延,剪断端面,打ち抜き穴又は冷間成形棒鋼及びボルト等に例証される苛酷な冷間成形加工を行う場合は,1200~1300゜F(650~705℃)の変態温度以下の温度で焼鈍を行わなければならない。
冷間曲げ加工や圧延成形等で,あまり苛酷でない冷間成形の場合は,応力を除去するのに最大1100゜F(595℃)以下とすることが,極端な結晶粒の成長を避けるために賢明である。又鋼を完全に焼きならしを行うために,温度は1600~1700゜F(870~925℃)にする。その温度における処理時間は焼く1h/in(肉厚25.4mm)とする。

(6)亜鉛めっきのための前処理

i)水素は酸洗中に吸蔵され,3.ii)に述べたいくつかの例のようにめっき製品の脆化を促進する。この脆化又は表面の亀裂は,酸洗温度が高すぎる,酸洗時間が長すぎる,及び酸洗抑制剤が少なすぎるなどによって増大する。
酸洗中吸蔵された水素は,酸洗後(めっき前)に300゜F(150℃)に加熱するとほぼ放出される。

ii)酸洗過多を防止する場合,ブラスト処理後,軽く酸洗を行う方法が用いられている。

(7)脆化を避けるための責任

製品の設計及び製作並びに通常のめっき操作でも脆化しないような適正な鋼材の選択は設計者及び制作者の責任である。  めっき業者としては適正な酸洗およびめっき方法を採用しなければならない。

3.冷間曲げ加工の曲率について

鋼種が適正であり,かつ適正な加工を受けた鋼材の場合,溶融亜鉛めっきされることによって「液体金属脆化割れ」を起こすことはない。
しかし前述の通り,冷間で苛酷な曲げ加工を受けた部分は,めっきア浴に浸漬時,「液体金属脆化割れ」を起こすことがある。
ASTM-A143に記しているように,溶融亜鉛めっきされる製品の冷間曲げ加工の曲率については,「冷間曲げ半径が肉厚の3倍以上である場合は,通常最終製品においてもその性質は変わらない」としている。

溶融亜鉛めっきされる部材の用途および特性を考え,この曲げ加工の曲率を今後の基準と考えるのが適正と考えられる。

写真1 溶融亜鉛めっきされた建築部材のコラム柱
写真1 溶融亜鉛めっきされた建築部材のコラム柱
写真2 めっきコラム柱を主に用いた建築物
写真2 めっきコラム柱を主に用いた建築物
写真3 溶融亜鉛めっき作業中
写真3 溶融亜鉛めっき作業中
溶融亜鉛めっきされる製品の冷間曲げ加工について(追加)
No.37号のパンフレットに掲載いたしました記事につきまして,下記の情報を関連して得ましたので以下にご紹介いたします。

冷間成形角形鋼管を柱素材として溶融亜鉛めっきして使用する場合

現在,建築物の柱材として最も広範囲な用途に使われている冷間成形鋼管の規格にはBCR・BCP*及びSTKR(JIS規格)があります。
冷間成形角形鋼管を柱素材として溶融亜鉛めっきする際には,熱応力,溶接部の残留応力および冷間成形による残留応力により,亀裂が発生することがあります。このめっき割れ感受性は,化学成分の影響を受けます。BCP,BCRはSTKPに比して化学成分を規制することにより,めっき割れ感受性が改善されていますが,めっき割れを防ぐのに不十分な場合もあります。従って,めっき仕様をメーカーに連絡し,それに対応した冷間成形角形鋼管を入手することが必要となります。

*BDR(社)鋼材倶楽部製品規格「冷間ロール成形角形鋼管」  BCP(社)鋼材倶楽部製品規格「冷間プレス成形角形鋼管」