1.鉛の歴史
- 鉛は自然銅や自然金に続いて、最も古くから人類が利用した金属のひとつです。
- 紀元前5000年~7000年に陶器に酸化鉛が使用され、紀元前3000年頃にはエジプトで魚網用に鉛錘が使用されていたようです。ローマ時代に入り水道用に鉛管が使用され始め、紀元後1400年になると活字印刷が発明され、鉛合金の活字が使用されだしました。
- 日本においては1500年代に弾丸用としての利用があり、江戸時代、仙台藩では貨幣に使用され江戸中期になると屋根瓦として使用されるようになりました。明治に入り水道用鉛管が使用され始め、日本の近代化に伴い鉛蓄電池、耐食材料、電極材料、放射線遮蔽材料、遮音材料など用途開発がおこなわれていきました。
2.鉛の特性
- 原子番号は82、原子量は207.21です。
- 融点は327°Cです。
- 密度は20°Cのとき11.34 g/cm3です。鉛より密度が大きいのは金・白金・タンタル・タングステン等貴金属や希少金属等に限られます。鉄の約1.4倍の密度があります。
- 放射線の遮蔽能力は材料の密度に比例するといえますので、一般的な実用金属として鉛は最も優れた放射線遮蔽材料であるといえます。
3.用途
- 世界での鉛の年間需要量は約1,100万トンであり、その内日本での需要量は約26万トンです。
- 日本の鉛需要の約90%が鉛蓄電池向けで、残りの約10%が鉛管としての使用や、鉛板として放射線遮蔽、遮音等に使用されています。
- 鉛は原子番号が大きく、密度が高いという特徴から、鉛複合板(鉛板+石膏ボード等)として放射線の遮蔽材料に広く利用されています。
- さらに放射線によって放射化されず安定であるということも、この用途の材料として大きい利点です。その性質を利用した身近なものに病院のレントゲン室やCT スキャン室の遮蔽材、またPET 用ホットセルがあります。
- 原子力発電所をはじめ大学や研究所の放射線装置の遮蔽材としても広く使われ、安全確保に寄与しています。その例としてエックス線非破壊検査装置、Ge(ゲルマニウム)検出器があります。
4.環境・リサイクル
- 鉛の毒性や鉛中毒の症状については古くから知られており、19世紀の半ばには鉛の製錬、加工作業の従事者に鉛中毒が多く発生したことが記録されています。その主な原因は浮遊する鉛粉や鉛化合物が口や鼻からはいり、ある許容限界以上の鉛が体内に蓄積されたためです。その後、鉛製錬所、鉛の加工工場において職場環境の改善、衛生管理の徹底等の諸対策を講じて、現在では、鉛を直接取り扱っている製錬所、鉛加工工場においてさえ鉛中毒の発生は皆無です。
- 労働安全衛生法の鉛中毒予防規則では恒常的に鉛業務を行う工場等において作業員が鉛を含む粉塵等を経口摂取しないように作業環境の改善、衛生管理の徹底など細かく予防措置を講じることとしています。
- 建築現場の作業では鉛を経口摂取する可能性は考えられず、規則上の鉛作業には該当しません。また施工後の鉛遮蔽板は壁に覆われ、人体に直接接触せず、経口摂取することもありません。
- 鉛地金や金属鉛の加工品に触れただけで鉛中毒になる心配はありません。鉛は取り扱いを間違えず、その性質をうまく利用すれば我々の生活を便利に、そして豊かにしてくれる物なのです。
- 使用された鉛は90%以上が再利用されており、「リサイクルの優等生」といえます。
5.鉛複合板と無鉛X線遮蔽石膏板の比較
鉛複合板 | 無鉛X線遮蔽石膏板 | ||||
---|---|---|---|---|---|
鉛当量1.0mm タイプ |
鉛当量1.5mm タイプ |
鉛当量2.0mm タイプ |
鉛当量0.75mm タイプ |
鉛当量1.0mm タイプ |
|
形状 | ベベル・テーパー等各種エッジに対応 | スクウェアエッジ | |||
厚さ | 9.5、12.5、15、21mm等各種厚さに対応した複合品の製造が可能 | 12.5mm | 15.0mm | ||
寸法 | 910mm×1,820mm、606mm×1,820mm | 910mm×1,820mm | |||
含水率 | 3%以下(石膏ボード) | 3%以下 | |||
曲げ破壊 強度 |
長さ方向: 500N以上(12.5mm) 幅方向: 180N以上(12.5mm) |
長さ方向: 500N以上 幅方向: 180N以上 |
|||
重量 | 約33kg/枚 | 約43kg/枚 | 約52kg/枚 | 約30kg/枚 | 約40kg/枚 |
性能 | 鉛当量 1.0mm |
鉛当量 1.5mm |
鉛当量 2.0mm |
鉛当量 0.75mm (2枚で 鉛当量 1.5mm) |
鉛当量 1.0mm (2枚で 鉛当量 2.0mm) |
ホルム アルデヒド 放散量 |
ホルムアルデヒド発散建築材料ではなく 告示対象外の建材 |
0.1mg/L未満 | |||
製品 主成分 |
鉛板、石膏ボード | 硫酸バリウム、石膏 |
6.鉛複合板の特徴
施工性
- 一枚で鉛当量を満たすため、鉛複合板を二重張りする必要がない。
- 粉塵発生は通常の石膏ボード切断時と同等である。
- 材料の密度が高いので、運搬、保管スペースが少なくて済む。
- 石膏ボード以外のシナ合板・ラワン合板など多種多様な建材に貼り合せることができる。
- 軽量鉄骨下地や木造下地に通常使用のタッピングビス、釘で施工できる。
- 施工業者の指定はなく、大工や内装工事の職方で施工ができる。
- 空調・給排水設備などの貫通部、埋め込み型の照明器具やコンセント・スイッチボックスなど開口部の遮蔽処理は鉛板などで処理する必要がある。
- 木製・アルミ製・鋼製の防護建具内部にも鉛板が使用されている。
仕上
- クロス仕上、塗装仕上が可能である。
- 不陸調整は鉛テープ、切りまわしロスの鉛を利用して調整し、更に不陸の解消方法として石膏ボード等の上張りも推奨している。
- 仕上げは通常のパテ処理で足り、下地調整シーラー等の塗布処理は不要である。
環境、リサイクル
- 鉛はリサイクル性の高い金属であり、鉛蓄電池、鉛板(遮蔽板)、鉛管等はリサイクルシステムも機能し、優良な資源循環型金属である。
- 使用された鉛の90%以上が再利用されている。
人体への影響
- 労働安全衛生法の鉛中毒予防規則では、恒常的に鉛業務を行う工場等において作業員が鉛を含む粉塵等を経口摂取しないように、作業環境の改善、衛生管理の徹底など細かく予防措置を講じる事としている。
- 建築現場の作業では鉛を経口摂取する可能性は考えられず、規則上の鉛作業には該当しない。鉛遮蔽板は壁の中に入るものであり人体に直接接触せず、経口摂取することもない。
- 鉛は正しく使用、管理する限り、非常に有用な金属である。
その他
- 鉛板はJIS規格(JIS H 4301)で純度、均一性、厚さが保証され、安定した遮蔽性能を確保している。
- PET等のガンマ線検査用装置の高エネルギー放射線の防護にも使用できる。
7.結び
- 鉛は本質的に有している特性から、放射線遮蔽材料として極めて優秀な材料です。
- 適正に管理、使用すれば、有害性が顕在化することはなく、環境的にもリサイクル比率が高い 「リサイクルの優等生」といえる材料です。
- これを機会に鉛に対するご理解を深めていただき、これからも鉛製品をご利用いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
【資料作成元・問い合わせ先】
日本鉱業協会 鉛亜鉛需要開発センター
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オーケーレックス株式会社 東京営業所
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