溶融亜鉛めっき
鉄は生活の中であらゆる場所で使用されていますが腐食(さび)には弱く、さびが進行してしまうと、美観を損ねるもしくは製品強度が低下します。さらに進行すると機械設備や建物などの寿命が失われてしまいます。亜鉛は鉄の表面をめっきすることにより鉄鋼製品のさびを防ぐことができます。さびを防ぎ製品寿命を延ばすことは、経済的効果があるとともに、省資源・省エネルギ―に寄与することにもつながります。
溶融亜鉛めっきとは
溶融亜鉛めっきとは、高温で溶解した亜鉛浴に鋼材を浸漬し、鉄表面に亜鉛の被膜を形成する技術です。他の表面処理法(塗装、電気めっき等)とは異なり亜鉛と鉄の合金層*1が形成されます。鉄鋼素地とよく密着して衝撃や摩擦などにより剥離することがありません。
ボルト、ナットのような小さい製品から数十トンにも及ぶ鋼材までめっきが可能であり、また、中空体など手の届かない部分や目に見えない箇所まで均等にめっきができます。
溶融亜鉛めっきには、「保護被膜作用」*2と「犠牲防食作用」*3の2種類の防食作用があります。
*1;合金層
溶融亜鉛めっきを施した鋼材の表面は鉄と亜鉛の合金反応で形成された合金層と合金層の上に付着する亜鉛層からなっている。通常のめっき条件でみられる被膜組織は、素地に近いほうからΓ(ガンマ)層、δ1(デルタワン)層、ζ(ツェータ)層とその上の浴成分と同じη(イータ)層である。
- Γ(ガンマ)層:鉄地に接した層で、ふつう非常に薄いものである。立方晶系の構造を持ちFe3Zn10という化合物と考えられ硬くて脆い性質である。他の層との関係で認められない場合が多い。
- δ1(デルタワン)層:緻密な組織を示し、複雑な六方晶系の構造を持ち、靭性・延性に富んでいるのが特徴である。FeZn7という化合物と考えられ、亜鉛を固溶して鉄の含有率は7~11%である。硬度もかなり高くミクロビッカースの測定で200以上と言われている。
- ζ(ツェータ)層:単斜晶系に属し、被膜層中最も顕著な結晶を持ち、柱状組織である。これらの結晶は他の結晶に比べると、対称性が低くお互いに結合していないので、この間に亀裂を生じる性質があり脆い傾向にある。FeZn13という化合物と考えられ、鉄の含有率は6%程度である。
- η(イータ)層:亜鉛浴から引き上げる際に表面に付着した亜鉛層で稠密六方晶系に属し柔らかく展延性に富み変形加工を受けても破れることはない。
*2;保護被膜作用
めっき被膜表面の亜鉛が大気中の酸素、二酸化炭素、水分等と反応し緻密な不働態被膜を形成し表面が覆われることになり腐食の進行が抑えられる。
*3;犠牲防食作用
何らかの理由により、万一めっき被膜にキズが生じ鉄鋼素地が露出したとしても、キズの周囲の亜鉛が鉄より先に溶け出して電気化学的に保護して鉄の腐食を抑制する。
溶融亜鉛めっきの製造工程
①脱脂:めっき素材を、加温したアルカリ水溶液に漬けて、表面についている油脂・ニス等の油分を除去する。
②水洗:素材表面に付着している脱脂液を洗い流す。
③酸洗:めっき素材を塩酸に漬け、表面のさび・スケール等の酸化物を除去し、鉄素地を露出させる。
④水洗:素地表面に付着している酸洗液を洗い流す。
⑤フラックス処理:酸洗後の錆の発生を抑え、鉄と亜鉛の合金反応を促進させるため、加熱した塩化亜鉛アンモニウム水溶液(フラックス)に漬けて、素地表面にフラックス被膜を形成する。
⑥めっき:溶融亜鉛と鋼との反応による鉄・亜鉛の合金層と引き上げで付着する純亜鉛層からなるめっき被膜を形成する。
⑦冷却:めっきされた製品を温水で冷却する。この冷却により鉄と亜鉛の合金層の成長を止める。
⑧仕上げ:余剰亜鉛、酸化カス等の除去と仕上げ作業、結束作業をする。
溶融亜鉛めっきの規格等
① JIS(日本産業規格)
- JIS H 8641 ; 溶融亜鉛めっき
- JIS H 0401 ; 溶融亜鉛めっき試験方法
② 公益社団法人 土木学会
亜鉛めっき鉄筋を用いるコンクリート構造物の設計・施工指針(案)
公益社団法人 土木学会 コンクリート委員会 亜鉛めっき鉄筋指針改定委員会編
発行:2019年3月
③ 一般社団法人 日本建築学会
溶融亜鉛めっき鉄筋を用いた鉄筋コンクリート造建築物の設計・施工指針・同解説
日本建築学会編
発行:2022年3月