音楽を奏でる優れたバイプレイヤー 亜鉛ダイカスト
オルゴール【6号:1999/3発行】
蓋をあけると流れ出てくるか細いメロディーにそこはかとない郷愁を誘われる。日用品として身近なオルゴールの音色はささやかだが、オルゴールにもピンからキリまであって、高級品ともなると、小物入れや子供の玩具などのありふれたオルゴールとは一味違う楽器といっていいような深い響きの音を奏でる。実はこのようなレベルの音を創り出している要素のひとつが亜鉛ダイカストなのである。
バイオリンやピアノなどの楽器が美しい音色を響かせるのには共鳴という要素が欠かせない。それぞれよく共鳴する素材が組み込まれているわけだが、亜鉛ダイカストにはよき共鳴材としての特性があり、オルゴールはこれが生かされた好例である。
共鳴システム素材の諸条件
楽器の主要構造部分に要求されるのは共鳴のよさである。バイオリンならあの独特な形の胴が共鳴体となって弦のこすり合わされる音を大きく美しく響かせる。ピアノは音源のピアノ線を張るフレームが共鳴体で、これに鋳鉄製品が使われるようになってから、音色は初期のものに比べて際立って美しくなり、楽器の王様と呼ばれるようになったという。共鳴の仕掛けが美しい音を得るのにきわめて大切なことを物語っている。オルゴールもかつてはピアノ同様にフレームに鋳鉄を使っていたらしいが、今ではほとんどが亜鉛ダイカストを使うようになった。このあたりの背景を追ってみよう。
共鳴体の適材の物性としては、振動を吸収するためにまずある程度密度の高い物質でなければならない。でないと物理的によい共鳴効果が得られないのである。また一定以上の機械的強度が要求される。ピアノにしろオルゴールにしろ、音源システムを支えるフレームに使われるので、構造材としての強度も要求されるのである。成形加工性もきわめて重要である。オルゴールの場合は、蓋をあければフレームが見える場合もあるので、デザイン対応にも注意しなければならない。経済性はもとより大切、と数えてくると適材を見出すのはそう簡単ではない。
音を支援する最適材料
亜鉛ダイカストは実際には、亜鉛合金ダイカストという方が正確で、亜鉛に3.5%以上のアルミニウムと0.05%以上のマグネシウムを添加した合金である。さらに強度要求がある場合には数%以下の銅が加わる。そのほか目的によってはチタン、ベリリウム、リチウムなどが添加されることもあるが、基本組成は上記のZn-Al-MgかZn-Al-Cu-Mgの2種である。
まず亜鉛は他の金属と比較して振動を吸収する性質〈減衰能〉が高い。これは共鳴体として基本的に大切な性質である。次に亜鉛ダイカストの機械的性質を類似用途に使われる他の代表的な実用合金ダイカストと比較してみよう。比重はアルミニウム合金の2.7、マグネシウム合金の1.8と比べるてみると、6.7とけた違いに大きい。。煩雑なのでいちいち数字は挙げないが、伸びは他の二つの合金の2倍以上3倍に近く、シャルピー衝撃値に至っては、ほぼ20倍、せん断強さ、硬さもかなり上回るなど、疲れ強さを除き、機械的強度を示すほとんどの物性で大きな差をつけている。
デザイン対応という視点では、なめらかな表面、あるいはパターンをつけた表面などそのままでも十分に使える優れた表面仕上がりを持ち、また、さまざまな表面処理を施すことができるので、バラエティに富んだデザインができる。
経済性についても多面的なメリットがある。他の合金より低い鋳造温度は燃料使用量の低減につながり、、金型価格を低くしかも金型寿命を長く保つができる、鋳造のままでも鋳肌がなめらかで寸法制度が高いので機械加工の必要がない、などその総合的な経済性はきわめて高い。
以上のような性能のバランスから、亜鉛ダイカスト製品はオルゴールをはじめ音響関連製品、振動が操作性に影響する工具類から自転車のベルに至るまで、音と振動の素材として幅広く活躍しているのである。
流麗なサウンドを創造するオーディオのインフラ
オーディオ機器【9号:2000/2発行】
音を伝え、再生する技術は、ラジオ、蓄音機に始まり、モノラルからステレオへ、アナログからデジタルへ、ディスクからテープへそしてまたコンパクト・ディスクへ、イノベーションを重ねつつ、限りなく原音に近いサウンドを追求してきた。イノベーションの中心はもとより音の採録と再生のメカニズムそのものにあったが、音楽のプロや愛好者の繊細な聴覚にアピールするには、システム全体に対するより細心な設計配慮が必要であった。そのひとつが音質に微妙な影響を与えるパーツ素材選択の問題。ソースから発する音質そのものは優れていても、機器の内部を伝わる過程で二次音質が影響されては何にもならない。このような高度なオーディオ機器独特の材質要求への解答となったのが亜鉛ダイカストである。
音の品質を護る制振特性
オーディオ機器は精密機械。その構成部材には当然振動、加圧、衝撃といった外部応力に対し強く狂いのこない機械的強度が必要である。屋内調度なので過酷な仕様条件にさらされるものではないが、耐久消費財として温度や湿度などへの耐性は要求される。また、加工性、精度、経済性など工業産品素材への基本的な特性についても十分な考慮が払われねばならないことはいうまでもない。
これらに加えて、オーディオ機器の場合は、サウンドに障害をきたさないという通常の機械装置には見られない特殊でデリケートな側面がある。
音の採録、再生の技術が格段の進歩を遂げるにつれ、構成部材への要求も細かくきびしくなってきた。まず音の質ヘの影響という最優先の条件について考えてみよう。 音は空気の振動である。オーディオの音は電気信号が振動素子を通じて空気の振動に転換され、鼓膜に伝わってくるのであるが、この際それ以外の構成要素も振動が避けられない。そこで振動に強い材質と設計が必要となるわけである。
制振性が強いというのは、振動を吸収する率が高いということ。受けた振動のかなりの部分がそこで吸収されれば、それだけ音として伝わっていく量が減ることになる。この音を吸収する性質を減衰能と呼ぶが、減衰能は密度が高いほど高くなる。簡単にいえば、重くなければならないのである。
一般に機器の材料としてのもっともポピュラーなニーズは、軽くてしかも強いことである。そこで現在、ダイカスト合金としては比重が小さく強度が高いアルミ系が多用されている。このアルミダイカスト合金に比べ亜鉛ダイカストの比重は2倍強ある。ダイカスト材料にこれだけの重量を求めるとなると、亜鉛ダイカスト以外には見当たらないのである。
このようにして、オーディオ機器の特殊性にミートするものとしてさまざまな選択肢の中から行きついたのが、減衰能にすぐれた亜鉛ダイカストだった。
ノイズを抑える非磁性処理
また、鋳肌がきわめてなめらかなので、メッキのりがいいという点も見逃せないメリット。ノイズの原因となる電磁波を抑える非磁性の適材は銅であるが、オーディオ・シャーシーは亜鉛ダイカストに銅をメッキすることで制振、非磁性の二つの基本要求を満たしているのである。
このようにしてオーディオ機器、特に高級機種のシャーシー部分等については亜鉛ダイカストが高い支持を得ることとなったのであった。
写真は高級アンプのシャーシ。このほかオーディオ機器、レコードプレーヤー、テープ、CDプレーヤー、スピーカー等々音響機器の機構部品として回転軸受け、車およびギヤ、プーリー、バランサー、ケースなどに多くの亜鉛ダイカストが使われている。
さらに音響関連品では、マイクロホンのボディーなどにも亜鉛ダイカストが採用されている。オーディオ製品同様音質が生命のマイクにとって亜鉛ダイカストの選択は必然の成り行きであったといってよい。
オーディオだけではなく、今や国民的娯楽となったカラオケなど、音の楽しみ方はますます多様化しているだけに、音響関連分野は亜鉛ダイカストの潜在市場として今後への期待も大きい。
フォトライブラリ
組立シャーシ及び共鳴体として使用。
金めっき等で高級感を出し付加価値をアップ
組立シャーシ及び共鳴体として使用。
シャーシーに使用。
精神性を確保するとともに、銅めっき施し磁気もシャットアウト