各地にウォータースライダーが建設され,防錆と美観のために溶融亜鉛めっき上に塗装が施されています。
各地にウォータースライダーが建設され,防錆と美観のために溶融亜鉛めっき上に塗装が施されています。

1.溶融亜鉛めっきの防食機能

溶融亜鉛めっきは鉄鋼材料の防食皮膜として優れており,古くから様々な分野で使用されてきました。  溶融亜鉛めっきの防食機能は次の2つに大別されます。

 

 

 

(1)保護皮膜としての作用

溶融亜鉛めっき表面に緻密な薄膜が生成し,この薄膜が強力な保護皮膜となり,その後の腐食を抑制します。

(2)犠牲防食作用

溶融亜鉛めっき皮膜になんらかの理由でキズが生じた場合,周囲の亜鉛が陽イオンとなって鉄の腐食を抑制し,電気化学的に保護する犠牲防食作用があります。
以上のような優れた防食機能を持っているので,充分な厚みをつけた溶融亜鉛めっき鋼材は裸のまま使用するのが原則とされましたが,最近は都市の美観,環境調和,アメニティを求める高級化指向および耐候性の向上などの必要上塗装されることが増えております。

2.溶融亜鉛めっきの表面状態

2-1.普通めっき

溶融亜鉛めっき直後の表面は通常金属光沢を有しております。これは表面に生成する酸化皮膜が非常に薄いため,光をほとんど透過し下地の亜鉛の光沢がそのまま見えるからです。
このめっき表面に生成する酸化皮膜はめっき直後では非常に活性であり,雨水や夜霧等によって白さびが生じることはありますが,それ以外は亜鉛特有の金属光沢を有しております。

2-2.やけめっき

やけめっきとは鉄亜鉛合金層がめっき表面に露出したものであり,光沢がなく灰色ないし暗灰色を呈したものです。やけめっき表面は粗面になっており常乾タイプの塗装の場合は付着性が向上するといわれております。
焼付タイプの塗装の場合は塗膜にふくれを生じることがあるので注意する必要があります。これはやけ表面が多孔質なため表面に水分等が残存し,その上に塗装した場合,焼付時の加熱により水分が気化し,塗膜が押し上げられるためと考えられています。こうした現象を生じる場合は焼付を行う前に被塗装材を加熱(からやき)して水分を蒸発させることが必要です。

2-3.かすびき等の付着

亜鉛めっき浴表面では亜鉛が酸化して酸化亜鉛になり,フラックスが熱分解して塩化亜鉛などになります。これをかすびきといいます。
製品をめっき浴から引き上げる際,めっき浴表面にかすびきが付着しないように除去作業を行いますが,不充分な場合製品に付着することがまれにあります。これらが付着していれば塗膜のふくれの原因となります。したがって,かすびきが製品に付着した場合はディスクサンダーまたはやすり等で除去しておく必要があります。

2-4.白さび

大気中において緻密な保護性酸化皮膜が厚く形成された亜鉛めっきは,腐食性物質の付着以外には容易に白さびは発生しません。一般的傾向として白さびは金属光沢のある溶融亜鉛めっき層に発生しやすく,金属光沢のあるめっき層が雨水や夜霧等に濡れて容易に乾燥されないような環境にさらされたときに発生します。
この白さびが発生している上に塗装を施しても,塗膜の密着性は良くありません。したがって,ワイヤーブラシ等で白さびを除去した後,塗装することが必要です。

3.塗装前処理

溶融亜鉛めっき面に付着し,塗膜の付着を阻害するものとしては,一般的なよごれのほか,鉱油,脂肪酸亜鉛,白さびなどがあり,塗装前に化学的処理や物理的処理により除去します。
化学的処理としてよく用いられるのがりん酸塩処理であり,物理的な処理としては研磨作業があります。

3-1.化学的処理

りん酸塩処理,クロム酸処理,アルカリ処理などがありますが,一般的によく用いられているのがりん酸塩処理です。
適正な状態に管理されたりん酸亜鉛浴中で処理すればきわめて安定した塗装下地になります。

3-2.物理的処理

溶融亜鉛めっき面の物理的処理方法は,鉄鋼の場合と本質的に差異はありませんが,めっき層の厚さ,亜鉛の柔らかさなども考慮する必要があります。
油脂やグリースなど液体のよごれがある場合は,水洗や溶剤洗浄により,それを除いてから研磨します。研磨作業にはワイヤーブラシ,スチールタワシ,サンドペーパーなどを用いますが,電動工具を使用する場合は亜鉛めっき層を削りすぎないように注意しなければなりません。

4.プライマー塗装

溶融亜鉛めっき上の塗装で最も重要な点はめっき表面と塗膜の付着性です。この付着性向上のためプライマーを用いることが多いのですが,溶融亜鉛めっき上のプライマーとしては,塗料の用途,防錆機構などの特性から,エッチングプライマーとその他のプライマーに二分されます。

4-1.エッチングプライマーの種類と特徴

エッチングプライマーはウォッシュプライマーとも称され,その品質はJISK 5633に規定されてます。成分はポリビニルプチラール樹脂とジンククロメートとりん酸が主体となります。

4-2.その他のプライマー

その他のプライマーは次のように分類されます。

  1. 使用防錆顔料による分類(鉛酸カルシウム,りん酸亜鉛,亜鉛末,ジンククロメートなど)。
  2. 使用ビヒクルによる分類(アルキド樹脂系,エポキシ樹脂系,塩化ゴム樹脂系,フェノール樹脂系など)。

5.上塗り塗装

プライマーと上塗りとの組合わせと相性  塗料は通常,下塗り(プライマー),中塗り,上塗りというように何層か塗り重ねて塗装系として用います。この場合,同一系統の塗料の重ねは特に問題はありませんが,異なった系統の塗料を組み合わせて塗装系を組むときにはいろいろ相性があるので注意が必要です。
次に代表的な塗装についてプライマーと上塗り塗料との組合わせの適否を表1に示します。

表1 各種塗料の組合せ適否
プライマー 上塗り塗塗料 油性系 アルキド系 フェノール系 塩化ゴム系 塩化ビニル系 アクリル系 エポキシ系 タールエポキシ系 ポリウレタン系 シリコーン系
(耐熱)
油性系 × × × × × ×
アルキド系 × × × × × ×
フェノール系 × × × × × ×
塩化ゴム系 × × × × × ×
塩化ビニル系 × × × ×
アクリル系 × × × ×
エポキシ系 ×
タールエポキシ系 × × × × × × × × ×
ポリウレタン系 ×
シリコーン系(耐熱) × × × × × × × × ×

○は適するもの,△は条件付きで適するもの,×は適さないもの。

6.溶融亜鉛めっき面への塗装例

次に日本橋梁建設協会と日本溶融亜鉛鍍金協会で構成されているめっき橋懇談会で定めた溶融亜鉛めっき新設と既設の場合の塗装仕様を一例として示す。

6-1.新設亜鉛めっき面の塗装仕様

新設亜鉛めっきの素地調整は化成処理が付着性確保のためには最も優れるが,施工性を考慮し,スイープブラストを提案します。

表2 塩化ゴム系塗料仕上げ
工程 品名 塗回数 塗装
間隔
標準使用量
(kg/m2/回)
シンナー希釈率(%) 膜厚
(μm)
素地
調整
油分の付着は脱脂洗浄する。
付着性を確保するために,スイープブラスト処理(SPSS ZD Ss以上)を行う。
ブラスト処理が難しい,複雑形状の小部材は屋外で暴露し,白さびを除去した後,塗装してもよい。
下塗 塩化ゴム系塗装下塗 1 16時間以上 0.25
(スプレー)
塩化ゴム塗料用シンナー(0~10) 45
中塗 塩化ゴム系塗料中 1 16時間以上 0.21
(スプレー)
塩化ゴム塗料用シンナー(0~5) 35
上塗 塩化ゴム系塗料上塗 1 0.17
(スプレー)
塩化ゴム塗料用シンナー(0~5) 30

 

表3 ポリウレタン樹脂塗料仕上げ
工程 品名 塗回数 塗装
間隔
標準使用量
(kg/m2/回)
シンナー希釈率(%) 膜厚
(μm)
素地
調整
油分の付着は脱脂洗浄する。
付着性を確保するために,スイープブラスト処理(SPSS ZD Ss以上)を行う。
ブラスト処理が難しい,複雑形状の小部材は屋外で暴露し,白さびを除去した後,塗装してもよい。
下塗 亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料
1 16時間以上
7日以内
0.20
(スプレー)
亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料シンナー(0~10)
35
中塗 ポリウレタン
樹脂塗料使用
中塗り
1 16時間以上
7日以内
0.17
(スプレー)
エポキシ樹脂塗料用シンナ-
(0~5)
30
上塗 ポリウレタン樹脂塗料
上塗り
1 0.14
(スプレー)
ポリウレタン樹脂塗料用シンナー
(0~5)
25

6-2.既設劣化亜鉛めっき面の塗装仕様

表4 塩化ゴム系塗料仕上げ
工程 品名 塗回数 塗装
間隔
標準使用量
(kg/m2/回)
シンナー希釈率(%) 膜厚
(μm)
素地
調整
表面に付着しているほこり,ゴミなどを清掃除去する。油分の付着は脱脂清浄する。
白さびは研掃タワシなどで除去し,赤さび発生部は電動工具でSIS St3に素地調整する。
補修塗 亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料
1 16時間以上
7日以内
0.18
(はけ)
亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料シンナー(0~10)
35
下塗 亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料
1 16時間以上
7日以内
0.18
(はけ)
亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料シンナー(0~10)
35
中塗 塩化ゴム系塗料
中塗り
1 16時間以上
7日以内
0.17
(はけ)
塩化ゴム系塗料用シンナ-(0~5) 35
上塗 塩化ゴム系塗料
上塗り
1 0.15
(はけ)
塩化ゴム系塗料用シンナー(0~5) 30

注)補修塗りは,素地調整した後の鉄面露出部に適用する。

表5 ポリウレタン樹脂塗料仕上げ
工程 品名 塗回数 塗装
間隔
標準使用量
(kg/m2/回)
シンナー希釈率(%) 膜厚
(μm)
素地
調整
表面に付着しているほこり,ゴミなどを清掃除去する。油分の付着は脱脂清浄する。
白さびは研掃タワシなどで除去し,赤さび発生部は電動工具でSIS St3に素地調整する。
補修塗 亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料
1 16時間以上
7日以内
0.18
(はけ)
亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料シンナー(0~10)
35
下塗 亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料
1 16時間以上
7日以内
0.18
(はけ)
亜鉛めっき面用
エポキシ樹脂塗料シンナー(0~10)
35
中塗 ポリウレタン樹脂塗料用 中塗り 1 16時間以上
7日以内
0.14
(はけ)
エポキシ樹脂塗料用シンナ-(0~5) 30
上塗 ポリウレタン樹脂塗料用 上塗り 1 0.12
(はけ)
ポリウレタン樹脂塗料用シンナー(0~5) 25

注)補修塗りは,素地調整した後の鉄面露出部に適用する。

普通メッキ
普通メッキ
やけめっき
やけめっき
かすびき
かすびき
白さび
白さび