貯炭所上屋
貯炭所上屋
海岸近くに建てられた貯炭所の上屋には,約1000トンの溶融亜鉛めっき鋼材が使われています。

溶融亜鉛めっき鋼材類の耐用寿命は,それが置かれる環境により変わります。すなわち,国土の大部分を占める大気の清浄な田園・山岳地域では亜鉛皮膜の年間腐食減量は3~10g/m2程度で,都市・工業地域でも,大気中の硫黄酸化物濃度の減少により,最近では5~20g/m2程度になっています。

これらの腐食速度は550g/m2以上の亜鉛付着量が得られる最も一般的な大形めっき鋼材では,田園・山岳地域で50~160年,また都市・工業地域で25~100年の長期供用に耐えることを示しています。

しかし,海岸地域の場合では,多くの地域で年間腐食減量が10~20g/m2ですが,稀に100g/m2以上という激しい腐食を起こす場所があり,このことが溶融亜鉛めっき鋼材の海岸地域での耐食性についての信頼性を低下させる原因になっています。

このような疑問を解明するため,多くの海岸地帯で暴露試験を行ってきました。試験結果を下表に示しましたが,これから暴露地の環境状況と溶融亜鉛めっき鋼材の腐食減量との関係を知ることができます。

試験番号4,5の結果は激しい腐食を起こした場所ですが,いずれも常時海水飛沫を受ける海岸線間際の測定値です。また試験番号7は海岸線からかなり離れていますが,冬期は強い季節風により異常に高い濃度の海塩粒子が飛来し,しかも日本海沿岸の特殊な地形での測定で,初年度に高い腐食速度を示しています。

海岸地域での腐食形態の特徴は,白色の腐食生成物が表面に固着することであり,中でも腐食速度の速い所では非常に厚い(1~2mm)皮膜に覆われます。この皮膜はかなりの防食能があるため,海塩粒子濃度が支配的な地域での腐食速度は経年的に減少します。従って,常時海水飛沫を受けたり,海塩粒子濃度の月間平均値が,1mg/dm2/dayを超えるような特殊海岸地域でも溶融亜鉛めっき鋼材は,5~10年の耐用寿命があるようです。

しかしながら,台風時や特別の高波時にのみ海水飛沫を受けるような場所も含めて,ほとんどの海岸地域における長期間供用時の年間腐食減量は,10~20g/m2であると推定できます。このことは,通常の大形めっき鋼材(亜鉛付着量550g/m2)では,25~50年の耐用寿命があることを示しており,溶融亜鉛めっき方法は,一般的な環境下と同様に海岸地域においても非常に経済的で,かつ信頼性の高い防食方法といえます。




暴露地 暴露地の状況 大気暴露
開始年月
(昭和)
暴露期間(年)別の年間平均腐食減量 g/m2/年
0~1 1~2 2~3 3~5 5~10
1 伊良湖岬測候所 伊良湖岬の先端部で,太平洋,伊勢湾より3km,渥美湾より1km程度の地点 39年
3月
10 15 13 15 8
2 四国電力(株)
宇多津変電所
瀬戸内海海岸より300m程度,暴露開始時は周囲は塩田であったが,埋立てられた。 41年
6月
12 10 9 14 11
3 日本鉱業(株)
佐賀関製錬所
豊予海峡に面し,海岸より30m,高度20m程度の崖上,崖には樹木がある。 56年
11月
24 (0~3)*
8
4 日本鉱業(株)
佐賀関製錬所
No.3地点の崖下,海岸線より数mで平均海面より3m程度の護岸上,沖約20mに露出岩礁あり 56年
11月
196 172 35
5 沖縄電力(株)
本社浦添市牧港
東シナ海に面し,海岸間際の高さ2m程度の護岸上。高波では海水飛沫を受ける。 58年
10月
90 (0~2)
34
6 東洋コンクリート(株)
沖縄県西原村
太平洋側の中城湾奥の海岸線より20m程度の地点。砂浜で高さ数m程度の防波堤が途中にある。 58年
5月
15 (0~2)
14
7 北陸自動車道鯨波橋(柏崎近辺) 岩礁の多い日本海海岸線より,約200mの谷奥に架かる自動車道路橋の海岸に面した橋台上 57年
9月
45 (0~3)
20
8 広島県宮島沖・中国塗料(株)
海洋暴露筏
瀬戸内海の暴露用浮上筏に設けた暴露台
海面上1.0mの高さで暴露
59年
8月
19
9 大井川町沖海洋技術総合研究施設 大井川町の沖,約250mの太平洋の中に設置された海洋暴露台,T.P.13.9mのデッキ上 59年
5月
(0~2)
21
10 日本ウエザリングテストセンター(銚子市) 犬吠埼より西11km,太平洋より4kmの高度50mの台地上。湿度のやや高い代表的田園地域 50年
12月
10 5 5 3 3

備考
試験番号1,5,6,7,8,10は(社)日本溶融亜鉛鍍金協会による暴露試験,2は田中亜鉛鍍金(株),3,4は安治川鉄工建設(株)による暴露試験,9は日本亜鉛需要研究会による測定。( )*は暴露期間を示す。