明石SA橋(第二神明道路)
明石SA橋(第二神明道路)
昭和51年に溶融亜鉛めっきされた橋桁で,現在でも安定した表面状態を保っております。

鋼構造物の長期間防食には,溶融亜鉛めっきが経済的に最も有利な表面処理方法であります。

防食費用には

  1. 初期費用……初めにどの位の費用がかかるか?
  2. 維持費用……保守にどの位の費用がかかるか?

の2種類があり,その合計が防食費用になります。
溶融亜鉛めっきの特長の一つは,防食寿命が非常に長く,その期間中は維持費用を原則的に必要としないことであります。
初期費用が溶融亜鉛めっきより安価な表面処理はありますが,それらの表面処理は比較的短期間に防食能力がなくなるために維持費用がかかり,合計費用では溶融亜鉛めっきより高価になります。
溶融亜鉛めっきと,同様に鋼構造物の長期間防食に使用されている塗装とを比較して説明しましょう。

 

一般鉄鋼製品について

溶融亜鉛めっき加工費用は1トン単位で決められています。他方,塗装費用は塗装種類によって異なり,1m2単位で決められています。
そこで,溶融亜鉛めっき加工費用は鋼材肉厚が4mm,8mmおよび15mmの3種類の場合を選んで1m2単位に換算し,塗装からは比較的多用されている2種類を選んで,溶融亜鉛めっきと塗装との経済性を比較してみました。

(1)初期費用の比較

以前は「溶融亜鉛めっきは保守には費用が殆どかからないが,初期費用が高い」というのが一般的な通念でありましたが,最近では,その差が平均的には殆どなくなっています。
製品の肉厚が比較的薄い場合には,むしろ溶融亜鉛めっきの方が安価になっています。
この主な原因は人件費が年々上昇していることにあります。溶融亜鉛めっきは工場で加工されるために,加工費用の中で人件費の占める割合が塗装に比べて少ないのであります。従って,溶融亜鉛めっき加工費用の上昇が比較的緩やかでありますが,塗装費用の上昇が大きくなっています。

(2)維持費用の比較

塗装は通常数年の周期で塗り替えを必要とするのに対して,溶融亜鉛めっきは防食寿命が続く限りの長期間,維持費用を必要としませんので,溶融亜鉛めっきの方が経済的に有利であることは疑う余地がありません。

(3)総費用の比較

溶融亜鉛めっき加工費用と塗装費用について,初期費用と塗り替え費用の例を表1に表しています。
これを基にして,30年間における合計直接費用の推移を図1に示しました。

表1 溶融亜鉛めっきと塗装の直接経費の比較(期間:30年)
項目 溶融亜鉛めっき 塗装
A鋼材 B鋼材 C鋼材 例1 例2
初期費用(円/m2 1,218 2,440 4,670 2,470 3,275
塗り替え
費用(円/m2/回)
0 0 0 1,923 2,325
周期
5年 10年
回数(回)
0 0 0 5回 2回
小計(円/m2
0 0 0 9,615 4,650
合計費用(円/m2 1,218 2,440 4,670 12,085 7,925
防食能力残存評価額(円/m2 -203 -407 -1,751 0 0
差実質経費(円/m2 1,015 2,033 2,919 12,085 7,925

備考:溶融亜鉛めっきおよび塗装の費用は「建設物価平成2年4月号No.745」に基づき,溶融亜鉛めっきは工場への運送費,塗装は現場管理および一般管理費を含めて算出します。
溶融亜鉛めっき加工費用は,鉄骨溶接体,施工規模200t,めっき規格HDZ55(めっき付着量550g/m2以上)の場合を選出しました。即ち下記の通りであります。

最高地区 最低地 平均 運送費加算
めっき加工費(円/t)
75,000
67,000
71,000
77,600

注:1)溶融亜鉛めっきはA鋼材,B鋼材,C鋼材の肉厚をそれぞれ,4mm,8mm,15mmとし,めっき層寿命を36年,36年,48年を見込んでいます。
めっき層寿命は,めっき付着量をAおよびB鋼材が600g/m2,C鋼材が800g/m2とし,都市地帯(めっき層腐食速度15g/m2/年)の使用環境で,めっき付着量の90%が腐食された時点をめっき層寿命として,次の計算式から算出しています。
(めっき層寿命)=(めっき付着量g/m2)×0.9÷(めっき層腐食速度g/m2/年)

注:2)初期塗装仕様は

例1.下地調整:C種(ディスクサンダー)
下塗り: 鉛系さび止め塗料1回
中塗り: 合成樹脂調合ペイント1回
上塗り: 合成樹脂調合ペイント1回
例2.下地調整:C種(ディスクサンダー)
下塗り: エポキシ樹脂塗り3回(プライマー含む)
中塗り:
上塗り:

塗り替えは夫々同一塗装仕様とし,塗り替え面積を塗装面積の半分,下地調整をケレン3種Cに変更および足場費を含むとして費用を算出しています。

注:3)
防食能力残存評価額は次の計算から求めています。
溶融亜鉛めっきの場合:めっき費用(円/m2)×耐用寿命(年)-使用期間(年)@耐用寿命(年)
塗装の場合:類似計算式で求められますが,上記の例では共に0です。

 

図1 溶融亜鉛めっきと塗装との直接経費の比較
図1 溶融亜鉛めっきと塗装との直接経費の比較
(点線は防食能力残存評価額を考慮した実質経費です)

こので見られる通り,鋼材肉厚が15mmの場合には,溶融亜鉛めっきは初期費用で塗装より高価になっていますが,塗装の1~2回の塗り替えで溶融亜鉛めっきの方が合計直接費用で安価になります。
ここで掲げた例では,鋼材肉厚が8mm以下になりますと初期費用で既に溶融亜鉛めっきの方が安価になっています。
これらの塗装例よりも安価な塗装種類がありましょうが,そのような塗装種類では一般に塗り替え間隔がさらに短くなりますので,合計費用では逆にさらに高価になることが多いのであります。
防食費用提言の手段として塗装の塗り替えを理由なく遅らせたり,省略したりしますと,鋼構造物が腐食されますので,経済的に最も不利な手段になることは周知の事実であります。

防食費用を複利金利を加味して評価する方法があります。
図2表1の費用を基にし,金利を年6.5%と設定してそれぞれの例を複利計算しています。
図2によりますと,鋼材肉厚15mmの溶融亜鉛めっきの防食コストが塗装例1,および例2のコストより安価になる時期は,直接費用計算の場合よりもやや長くなり,10~20年の2回目の塗り替えからになります。
鋼材肉厚が8mm以下になりますと,初年度から溶融亜鉛めっきの方が安価で,年毎にその差が大きく開きます。

(4)数値では表し難い溶融亜鉛めっきの経済的利点

A.溶融亜鉛めっきには工事施工の面で大きな利点があります。即ち,溶融亜鉛めっきは風雨などに関係なくめっき加工され,天候不順の時にも工事計画に狂いを生じません。

B.亜鉛めっき上の塗装技術が開発されていますので,海岸または工業地帯のような腐食性の強い屋外大気中で使用する場合,またはめっき層の防食寿命が終わった後も鋼構造物を使用する必要がある場合に,めっき上に塗装することによりさらに長期間の防食が可能です。

また,めっき層の防食寿命が終わる時点で再めっきすることも場合によっては可能です。

図2 溶融亜鉛めっきと塗装との防食コスト比較
図2 溶融亜鉛めっきと塗装との防食コスト比較 複利金利(6.5%/年)を含む計算。

橋梁について

橋梁の防食に関する溶融亜鉛めっきと塗装との経済性の比較については,日本道路公団大阪建設局殿が昭和63年3月に発表された,
「近畿自動車道天理吹田線溶融亜鉛めっき橋梁工事報告書」
の中で検討されています。
この検討は,
(1)溶融亜鉛めっきによる設計上の鋼重増加要因
(2)製作上の工数増加要因
(3)溶融亜鉛めっきと塗装との初期費用
(4)架設上の要因
(5)経済性についてのまとめ
と段階的に進められ,まとめとして,
『溶融亜鉛めっき橋梁の優れた長期防錆力を考慮すると経済性において優れているといえる。』
と結んでいます。
尚,塗装費用とめっき費用との経済性比較として,溶融亜鉛めっきには鋼重増分を考慮し,塗装には塗り替えを考慮して,比較したグラフを図3のように示しています。この計算は,投資費用を年6.5%の複利で運用されるものとしています。

図3 塗装費用、めっき費用経済性比較 (橋梁)
図3 塗装費用、めっき費用経済性比較 (橋梁)