溶融亜鉛めっき後,溶接による切断,接合やドリルで穴をあけると鉄素地が露出します。また,苛酷な曲げ加工や鋭利なもので強い衝撃を加えれば,めっき皮膜に亀裂,浮き上がりを生じ,極端な場合は剥離を生じることがあります。
これらめっき皮膜の破損部の補修には,耐食性,密着性のすぐれた材料であると共に,次の条件を備えることが必要です。
(1)未熟練者でも容易に作業できること。
(2)高価な設備を必要としないこと。
(3)密着性の良いこと。
(4)厚い皮膜を形成すること。
これらの特性を備えており,現在実際に使われているものとしては次の3種類があります。最も代表的なものは,ジンクリッチペイント(高濃度亜鉛未塗料)です。また,亜鉛―低融点金属合金や亜鉛溶射なども用いられることがあります。
1.ジンクリッチペイント
アルキルシリケート系の無機質とエポキシ樹脂やアルキッド樹脂を用いた有機質のジンクリッチペイントがあります。 無機質のジンクリッチペイントは,通常亜鉛末を塗膜中に80%以上含有し,速乾性で,無機質ビヒクルとの相乗効果で,すぐれた防錆効果があります。
有機質のジンクリッチペイントは,ハケ塗りなどの作業が容易にでき,鉄素地との密着はもとより上塗り塗料との密着性も良好です。
作業性が良いという理由で,一般には有機質のジンクリッチペイントがよく用いられています。いずれの場合も密着性を上げるためには,スラグ,さび,汚れをサンダーやグラインダーなどで完全に取り除くことが重要です。 乾燥した皮膜の外観は,亜鉛めっき直後の金属光沢とは多少異なりますが,1~2年大気中に曝露していきますと,色の差は次第になくなっていきます。
また,当初から周囲の亜鉛めっき光沢と合わせるために,亜鉛末にアルミニウム粉末を混合させて用いることがあります。この場合の塗料液とペーストの成分の一例は次のとおりです。 この塗料液とペーストを1:1(重量比)に混ぜて使用します。
性能は次のとおりです。
塗料液 | 酸化亜鉛 | 12 | (%) |
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アルキッド樹脂ワニス | 56 | ||
添加剤 | 2 | ||
溶 剤 | 30 | ||
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合 計 | 100 | (%) | |
ペースト | 亜鉛末 | 76 | (%) |
アルミペースト | 24 | ||
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合 計 | 100 | (%) |
項目 | 性能 | 備考 | |
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比重 | 1.5 | 20℃ | |
乾燥時間 | 指触 | 2時間 | JIS-K-5400 |
硬化 | 24時間 | ||
密着性 | 100/100 | ゴバン目試験 | |
耐屈曲性 | 2・φ合格 | 180゜折り曲げ | |
耐衝撃性 | 1/2”φ×500g×50cm合格 | Du-pont式 | |
エリクセン試験 | 5・押し出し異状なし | ||
容器中の状態 | 良 好 | JIS-K-5400 | |
作業性 | 良 好 | JIS-K-5400 |
2.亜鉛―低融点金属合金
亜鉛を主体とした低融点金属合金を鉄素地の表面に融着させる方法で,ジンクチョークやジンクリームなどの商品名で販売されています。
いずれも補修部分をサンダー,グラインダーなどで赤さび,スラグ,汚れを完全に除去したのち,加熱融着させて亜鉛めっき皮膜を形成させる方法です。
補修した表面の硬さは塗料の硬さに比べて大きく,外的な衝撃や摩擦に対してもすぐれています。
しかし,作業にはある程度熟練を要し,時間がかかりますので小面積の補修は可能ですが,補修面積が大きい場合は,不向きです。
3.亜鉛溶射
この方法を用いる場合,補修部にはまずブラスト処理をすることが必要です。
80μ程度の溶射皮膜厚さを得ることが容易にでき,密着性にもすぐれ,周囲のめっき皮膜に劣らぬ耐食性がえられます。 表面の色は灰白色を呈していますが,次第に周囲のめっき皮膜の色に近づいていきます。
しかし,この方法は溶射ガンやコンプレッサーなどの設備を用いることが必要です。