タンカーの配管
タンカーの配管
タンカーの手すり,階段等は勿論各種油用配管はフランジも含め全て溶融亜鉛めっきされた上,塗装されています。

工場内配管,石油備蓄タンク関係,タンカー及びガソリンスタンド等の配管にも溶融亜鉛めっき鋼管が使用されています。  一般に重油は,脱硫されているため,溶融亜鉛めっきには殆ど反応しないとされています。従って,今回は硫黄分の多い原油での腐食挙動を調べるため3種類の原油を用いて浸漬試験を行いました。

もっとも苛酷な条件として,原油と海水の交互浸漬というタンカーでの使用条件を想定してのテストも行いました。

タンカーの油槽は片道が空になり,船のバランスをとるために海水を入れることがあります。海水は鉄鋼を腐食しますが原油自体も鉄鋼を僅かではありますが腐食します。このために溶融亜鉛めっきによる防食を調査することになりました。原油は産地によって成分に差がありますので,産地別の差も考慮しました。試験の結果は表1に示しています。

試験は原油にヴェネズエラ,スマトラ,及びクエートの3種類を使い,溶融亜鉛めっきした鋼板とを互いに接触しないように配慮して,各原油中に連続浸漬,1週間間隔で各原油と海水に交互に浸漬,および1週間間隔で各原油浸漬と大気暴露を交互に繰り返しの3試験条件で1年間実施しました。

ヴェネズエラ産原油は他の2種類に比して僅かに腐食性でありましたが,溶融亜鉛めっきは3試験条件共に優れた耐食性を示しました。1週間間隔で原油と海水に交互浸漬した試験条件では他の2条件に比して10倍以上の腐食速度になりましたが,均一腐食であり孔食腐食はありません。

均一腐食の場合にはめっき層の耐用年数を計算により予測できますので,めっき付着量を600g/m2としてめっき層の耐用寿命を計算した値を表1に示しています。

表1 原油浸漬による亜鉛めっき皮膜の推定寿命と亜鉛めっきしない鋼板と亜鉛めっき皮膜との腐食割合
テスト条件 原油の種類
(地域)
溶融亜鉛めっき皮膜 亜鉛めっきしない鋼板と亜鉛めっき皮膜との腐食速度の割合
(めっき皮膜の耐食倍率)
平均腐食速度
g/m2/y
耐用年数
(年)
各原油中への連続浸漬 ヴェネズエラ 2.98 181 4.4
スマトラ 2.53 213 4.3
クエート 1.39 398 10.7
1週間間隔で各原油と海水に交互に浸漬 ヴェネズエラ 44.61 12 2.2
スマトラ 37.71 14 2.7
クエート 40.31 13 4.4
1週間間隔で各原油浸漬と大気暴露をくりかえしたもの ヴェネズエラ 6.11 88 4.2
スマトラ 3.84 141 5.5
クエート 2.26 237 8.5

備考:耐用年数は亜鉛めっき付着量600g/m2の90%までが腐食されてしまったという仮定に基づいて計算した。

また,試験片の1カ年経過後の外観状態は表2に示しています。
溶融亜鉛めっき皮膜を原油中と海水中に交互に浸漬する場合でも,初期腐食速度が速い最初の1年間の試験で12年以上の耐用寿命が算出されており,比較試験片としての黒鋼板の腐食速度に対し約2倍乃至4倍になっていますので,タンカー部材の鉄鋼製品の防食にも溶融亜鉛めっきが適していることが判ります。

尚,原油中への連続浸漬では腐食速度の最も大きいヴェネズエラ産でも180年以上の耐用年数であります。従って硫黄分の少ない重油,軽油,灯油等の寿命については更に長期の耐用が期待できます。

表2 各試験片1カ年経過後の外観状態
テスト条件 溶融亜鉛めっき皮膜 裸鋼
各原油中に連続浸漬 各試験片の全面は金属光沢が残っている。 各試験片の全面は赤錆おおわれ,僅かに孔食がある。
1週間間隔で各原油と海水に交互浸漬 各試験片の全面は灰色に変色し,部分的に白い腐食生成物が表面に付着している。 各試験片の全面は赤錆でおおわれ,孔食が激しい。

備考:3種類の原油の間には試験片の外観状態には著しい差はなかった。