マエストロが支えるイタリアの亜鉛ダイカスト

◆イタリアの亜鉛ダイカスト【12号:2000/9発行】

環境問題などとも響き合いながら、自然材の優しさやぬくもり、風格に人々の目が向けられている。重厚な質感を最大の特徴とする亜鉛ダイカストもより多くの関心を集めつつある自然材の1つ。21世紀に向って、自然材ヘのリバイバル傾向はますます高まるものと思われ、亜鉛ダイカストも近未来におけるさらなる飛躍が期待される。さて、ここに亜鉛ダイカストの近未来を占う興味深い例がある。イタリアにおける亜鉛ダイカストの急成長である。

昨今の日本ではイタリアンファションから、イタめし、イタリア家具など衣食住のあらゆる面でイタリアンブランドが花盛り。工業デザインにおいても独自の優れたセンスを発揮するこの国は今や亜鉛ダイカストの分野で世界のトップレベルにある。これまで国内事情にのみ目を向けてきたが、進みゆくグローバリゼーションを踏まえて海外にも目を転じ、最も有益な示唆を与えてくれそうなイタリアの亜鉛ダイカスト事情を代表例として取り上げる。

世界のデザイン発信基地

ヨーロッパの華と目されるフランス文化の源のかなりの部分はイタリアにあるといわれる。例えば、フランス料理の原型はイタリア料理とされるし、フランスのファッションも元はといえばイタリアファッションの亜流とする説もある。中世、ローマ法王がヨーロッパの権威の中心だった頃、法王のお膝元であるイタリアはヨーロッパの文化の先進地域であった。その後もルネッサンス期から15、6世紀頃にかけてヨーロッパをリードしたこのイタリアの文化の流れの多くが17、8世紀にかけてブルボン王朝の下で爛熟したフランス文化に受け継がれたという。

イタリアの優れた工芸デザインには古くからのこのような文化的背景があり、現代に息づいているのである。フェラーリ、アルファロメオ等に見られるGTカー、ベネシアン・グラスなどは最も有名なものの1つだが、靴、鞄などの皮革製品、家具などの木工品、イタリアンシルクなどの繊維製品、陶芸品ならバッサーノの果実装飾陶器、ミラノの白色陶、シシリアの陶製人形などに至るまで、さまざまな異なる素材の分野で、世界に誇る逸品が目白押しである。

金細工・銀細工などの貴金属アクセサリー、さらに人肌のような鋳肌で有名なブロンズ細工など金属素材の工芸技術もこれらに劣らない。こうした伝統のクラフトマンシップがイタリアにおける亜鉛ダイカストの躍進を支えてきた大きな要素の1つのようである。

最新の機械と熟練の技

イタリアの亜鉛合金ダイカストの生産量は1997年現在で91,000トン、それまでの10年間で年率約5.1 %の高成長を示している。イタリア経済全般の好況を背景に、その最大需要先である自動車産業をはじめ、電気・電子製品、建築関係などからの受注が堅調に推移しているからである。

自動車市場においては、部材の結合はわずかなずれも許されない。それを可能にする優れた機械的強度と安定した材質や優れた耐熱性、塗装性など亜鉛合金ダイカストならではの特性で車体、塗装下地、バックミラー、サイドミラーといった用途を確保しており、総体の需要は伸びつづけている。

電気・電子機器関連も、発電用部品、塗装機械ドラム、パネル用ガバナー、内蔵ボックス、ジャーなどを中心に好調であり、建築関係では、ドアの鍵、ドアノブ、換気扇、カーテンレールなど多彩な分野で使われている。長椅子その他の家具の脚などはイタリアらしい特色の現れた用途である。

イタリアの亜鉛合金ダイカスト好調の要因は、製品の表面を完璧に仕上げ、内部欠陥を解消するバキューム成形を中心とした技術革新の進展、より複雑精緻な形状を生み出す金型デザインや構造の向上などが挙げられるが、最も注目すべき点は、その背後にあるイタリア独特の熟練技術者群の存在である。イタリアの亜鉛合金ダイカスト産業は中小企業の集合であるが、その経営は前章で触れたようなクラフトマンシップに支えられ、昔からマエストロと称されて来た親方が最新の機械や技術をフルに使いこなしている。これこそイタリアの亜鉛合金ダイカスト需要伸長の原動力と指摘する向きもある。

現在世界の亜鉛生産量の18%を占めるというイタリアの亜鉛合金ダイカスト需要は、今後なお数年は過去を上回る年率8%の成長を維持すると予測されている。新旧の要素が調和した独自のシステムで伸びつつあるイタリア亜鉛合金業界の現状は、需要開発の今後を考える上で興味深い。

定番スタイルから最新ファッションまで高い競争力で他を圧倒

◆ファッション【13号:2001/7発行】

ミリタリールック・サファリルックなる言葉をご存知だろうか。今まさに大流行しようとしている今年のファッションスタイルである。その大きな特徴の一つは“金物”の多様にある。ボタン・ベルト・クツ・カバン・アクセサリーに至るまで、アクセントやデザインテイストとして金物が大活躍しているのだ。中でも亜鉛ダイカスト製品は質感・加工性・効率性に優れ、最も多く使われる金物の一つである。
複雑形状、小ロット、短納期、ロープライス、そしてめまぐるしく変化する流行に対応し、ファッション金物の世界で確固たる地位を誇る、最新の亜鉛ダイカストの魅力に迫る。

トレンドファッションに即応

ファッション金物における亜鉛ダイカストは、そもそも詰襟学生服などの制服やブレザー等の定番スタイルのボタンなどに重用されてきた。機能的強度はもちろん、製造の効率性、加工性の良さ、質感など、製品適性を満たすメリットが多いためである。

その後、いわゆるブランドものが流行するにつれ、金物に対するデザイン的なニーズは多様化し、フォーマルから最新のトレンド、最先端のモードにも、亜鉛ダイカストの“質感”が活かされるようになった。

ここ数年は、女性の“キャミソールファッション”等に代表されるシンプルスタイルが流行し、亜鉛ダイカストの出番がやや頭打ちになっていたが、ごく最近の“パリコレ”など、今後の流行を左右する新作デザインに、再び“金物の多様”傾向があり、日本でも“金物ファッション”(=亜鉛ダイカスト)がブームになりつつある。

今回の“ブーム”では、至近で見た時にも、ハッキリとデザイン差異がわかるような、いわばデザイン的差別化の“こだわり”が顕著で、質感はもちろんのこと様々な意匠的工夫が細部に渡り凝らされることになりそうだ。

金物メーカーでは、こうした流れを受け、従来の定番スタイル等で活用している亜鉛ダイカストを応用し、さらに複雑形状・小ロット・短納期を実現し、見事にトレンドニーズに即応している。

国内生産が強み

亜鉛ダイカスト製品が、充分な強度がありながら加工性に優れていることは、実用での信頼感の高さと服飾製品としての意匠性の高さを産み出す。例えば、微細な製品にシャープなイニシャルを金型の中子に彫刻する技術にかけては、あたかも“線彫り”を施したようで、この完成度の高さは亜鉛ダイカストの独壇場である。

表面加工の応用性に関しては、さまざまなメッキ処理が可能で、製品の質感を自在にコントロールする。重厚、あるいはシャープといった本来の質感だけでなく、例えば、銅製品が深錆びしたような、いわゆる“古美調”の演出や、真鍮製品の風合いを再現するなど、亜鉛ダイカスト製品に別趣の価値を付け加えることができる。

そして、他のダイカスト製品よりも経済性に優れていることも需給にとって大きなメリットになる。

亜鉛ダイカスト製品の従来からの利点は、加工性の良さと経済性、そして質感の良さにあり、服飾用途製品に使用する場合も、これらの特性が最大限に発揮される。そして最近のより複雑な形状ニーズにも柔軟に応え、かつ超短納期にも対応できたことが、今もって国産亜鉛ダイカスト製品が、ファッション金物において確固たる地位を築いている理由なのである。

フォトライブラリ

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亜鉛ダイカストならではの質感。

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鋳肌をそのまま活かした作品。

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亜鉛ダイカストならではの質感。

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梯子部分に亜鉛ダイカストを使用。

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加工性・効率性にも優れ、流行の変化にも即対応。

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寸法精度が優れているので、小さな製品も自由自在。

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亜鉛ダイカストならではの質感。

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バックル・錨部分に亜鉛ダイカストを使用。

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亜鉛ダイカストならどんなデザインも実現。

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亜鉛ダイカストならどんなデザインも実現。