冬期オリンピック用ジャンプ台(長野・白馬村)
冬期オリンピック用ジャンプ台(長野・白馬村) このジャンプ台スタート地点の柱などには,強固で錆びない溶融亜鉛めっき鋼材が使用されております。

同一条件でめっきされても溶融亜鉛めっき皮膜厚さ(付着量),外観(やけ),密着性などで大きく差を生ずることがあります。  これは主に鋼材中に含まれる化学成分の含有量に影響されるものであります。
一般に鋼材中に含まれるSi,Mn,Pなどは,いずれもその含有量が増加するとFe-Zn合金反応が活発になり亜鉛付着量を増加させ,やけ現象を生じたり,著しい場合は密着性を低下させ,めっき直後から皮膜に剥離を生じさせることがあります。
最近の鋼材は殆ど連続鋳造法で作られているため,Si含有量が多く,また近時多量に使用される高張力鋼は強度を増すため,C,Si,Mnを多く入れています。
今回はめっき皮膜性状に大きく影響をおよぼすSi,Pおよびその複合作用を中心に図で示します。

C:通常溶融亜鉛めっきされる鋼材の炭素含有量は,0.04~0.3%程度であります。 0.2%までの炭素はFe-Zn合金反応に影響は少ないが0.3%以上の鋼材では炭素量の増加にしたがって合金反応が活発になる傾向を示します。

Si:ケイ素は他の元素に比べ最もめっき皮膜厚さに影響をおよぼすといわれています。その含有量と付着量ならびにめっきやけとの関係を図1,図2にしめします。 図1,2であきらかなように0.02%以下であれば問題はありませんが,0.05~0.12%の範囲ではFe-Zn合金反応が非常に活発に起こり,亜鉛付着量は増大し,やけ易い傾向を示します。

図1 亜鉛付着量とSi量との関係
図1 亜鉛付着量とSi量との関係
図2 めっきやけ評点とSi量との関係
図2 めっきやけ評点とSi量との関係

また,0.16~0.23%の範囲では合金反応がやや抑制されますが,0.24%を越すと再び活発になります。|
亜鉛付着量もやけの度合も同様な傾向を示しています。合金層が著しく成長した場合に起こるやけ現象がひどい場合には,めっき表面が最初から黒灰色を示し,外観を損なうことになります。
しかし,光沢のあるめっき面とやけめっき面とでは,各地の大気暴露試験結果から亜鉛の腐食速度はほぼ同等であり耐食性の差は殆どありません。

Mn:含有量が低い間は合金反応速度に影響が見られないほどであります。しかし,1.2%を越えると合金反応が活発になります。

P:含有量が増加すると合金反応が活発になる傾向を示します。激しい場合はめっき層に剥離を生じることがあります。りん含有量と亜鉛めっき膜厚の関係を図3に示します。
ケイ素含有量0.025%程度でりん含有量が0.02~0.03%のオーダーに達すると,デルタワン層の部分的崩壊が現れ,ツェーター層とイーター層の混晶の生成に代わり合金反応が活発化してきます。
このようにPはSiとの複合作用が大きく,460℃でめっき層の形成を保証する基準としては次のように考えられています。

Si%<0.04%

そして

Si%+2.5×P%<0.09%
Si%と2.5×P%(1/100%)と亜鉛めっき膜厚(μm)の関係を図4に示します。

図3 亜鉛めっき膜厚とP量との関係
図3 亜鉛めっき膜厚とP量との関係
図4 亜鉛めっき膜厚とSi+2.5×P量との関係
図4 亜鉛めっき膜厚とSi+2.5×P量との関係

S:JIS規格内では影響ありません。

Al:含有量が増えると合金反応が活発になる傾向があります。Siとの複合作用があります。  一般的には次の基準であります。

(1)Al+Si(≦0.02%)≦0.05%
 Si量が0.02%以下でAlとSiの合計が0.05%以下であれば問題はありません。
(2)Al+Si>0.05%
AlとSiの合計が0.05%を越えると合金反応が活発になるため,めっき浴温は450℃以下にする事が望ましいのであります。

やけめっき
やけめっき
Pの影響でめっきが剥離した鋼材
Pの影響でめっきが剥離した鋼材1
Pの影響でめっきが剥離した鋼材2
Pの影響でめっきが剥離した鋼材2