溶融亜鉛めっき鋼構造物の耐久性を調査するため、建設後年数を経た施設の外観及びめっき膜厚を調査している。本報告では腐食環境のマイルドな地域に立地する鉄道橋及び厳しい環境に立地する水産研究所の施設の現状をまとめた。
1.福井鉄道㈱鉄道橋
1.1 調査概要
構造物名:福井鉄道㈱福武線 江端川鉄橋及び浅水(あそうず)川鉄橋
所在地:福井県武生市~福井市
建設時期:平成5年8月(江端川鉄橋)及び平成13年10月(浅水川鉄橋、塗装橋からめっき橋に架け替え)
調査年月日:平成14年5月29日
1.2 立地環境
鉄道路線は海岸からは約15~16km隔たっており、市街地との間には高さ400mないし600mクラスの山があるため、海塩粒子の影響はほとんど無視できる。
- 江端川鉄橋
やや交通量の多い道路に近接しており、福井市街の中心部に近く、環境的には田園地帯に近い。建設年月は平成5年8月。 - 浅水川鉄橋
主要道路から約500m離れており、田園地帯に位置する。
1.3 調査内容
(1)外観調査
[1] 江端川鉄橋
架橋後約9年を経過しており、やけの部分は灰色の色調が増している。上流側桁部に一部淡褐色の部分が見られたが、線路に面しているため、めっきの変色ではなく線路からの鉄粉による汚れの可能性が高い。
[2] 浅水川鉄橋
外観的にもまだ新しく、変色、白さびなどは見られない。
(2)膜厚測定
[1] 測定方法
現地で測定個所を決め、その個所を中心に約10cm四方をサンドペーパーで研磨して電磁膜厚計により10点測定を行い平均値を求めた。
[2] 膜厚測定結果
上流側桁 | 平均膜厚(μm) | 下流側桁 | 平均膜厚(μm) |
---|---|---|---|
ウエブ表側 | 242 | ウエブ表側 | 251 |
ウエブ線路側 | 237 | ウエブ線路側 | 237 |
フランジ表側 | 201 | フランジ表側 | 226 |
フランジ線路側 | 332 | フランジ線路側 | 227 |
フランジ裏面 | 332 | フランジ裏面 | 200 |
上流側桁 | 平均膜厚(μm) | 下流側桁 | 平均膜厚(μm) |
---|---|---|---|
ウエブ表側 | 267 | ウエブ表側 | 275 |
ウエブ線路側 | 282 | ウエブ線路側 | 325 |
フランジ表側 | 351 | フランジ表側 | 356 |
フランジ線路側 | 364 | フランジ線路側 | 305 |
フランジ裏面 | 359 | フランジ裏面 | 312 |
上流側桁シュー | 207 | 検査路手摺り | 129 |
1.4 まとめ
(1)江端川鉄橋
平成5年8月架設から約9年を経過しており、外観は落着いた灰色であるが、やけの部分は灰色が濃くなっている。
めっき膜厚は浅水川鉄橋とほとんど差がない。このことから8年の期間を経過しても亜鉛めっき膜厚は架設時とほぼ同じ値を維持しているものと推定してもよいと考えられる。したがって、今後の維持管理は目視による外観観察のみで、長期間にわたり事実上メンテナンスフリーのままでよいと考えられる。
(2)浅水川鉄橋
平成13年10月に、それまで塗装橋であったものを亜鉛めっき橋に架け替えたもので、まだ亜鉛の金属光沢を残している部分もあり、外観に関して問題となるところは全くない。
めっき膜厚は、一般環境における亜鉛めっき皮膜の耐久性をあてはめると200年程度の寿命が期待される。
検査路の手摺りは本体の橋桁と比較すると膜厚が少ないが、HDZ 55の規格に対して30%以上余裕のある付着量である。ただし橋桁の耐久性とは明確に差があるのと思われるので、1回/年程度の目視点検により、めっき表面の色調の変化を観察するなどの維持管理を実施してゆくことが望ましい。
2.近畿大学水産研究所
2.1 調査概要
構造物名:すさみ分室第1親魚水槽棟
所在地:和歌山県西牟婁郡すさみ町
建設時期:昭和61年5月
調査年月日:平成14年10月22日
2.2 立地環境
近畿大学水産研究所は和歌山県白浜町をはじめ、富山県新湊市や奄美大島など多くの実験場、研究室分室からなるが、今回調査したのは和歌山県西牟婁郡すさみ町に立地する水産研究所すさみ分室である。紀伊半島の南端に近く、南に太平洋に面した山裾に立地する。目の前が磯であり海風が直接吹き付ける、環境的には厳しいところである。
2.3 調査内容
(1)外観調査
建屋の鉄骨は壁で覆われており、直接雨にあたることは少ない。出入口、窓などから海塩粒子の侵入があると思われるが、雨水による洗浄を受けないため、全体的には白色の腐食生成物が固着した状態となっている。この腐食生成物は一方では防護被覆の役割も果たしており、海側出入口の主柱(角コラム)でも激しい腐食は見られない(写真3、4)。しかし循環水の吐出ポンプからの飛沫のかかる箇所及び水ぬれの多い床面に接する部分は部分的に赤さびを生じている。
(2)膜厚測定
[1] 測定方法
電磁膜厚計により、GL+約170cmの位置を1測定点につき10回測定を行って平均値を求めた。
[2] 測定結果
No. | 名称 | 平均膜厚(μm) |
---|---|---|
1 | No.2角柱東側 | 136 |
2 | No.2角柱水槽側 | 112 |
3 | No.3角柱東側 | 156 |
4 | No.3角柱水槽側 | 195 |
5 | 海側No.4H柱東側 | 115 |
6 | 海側No.4H柱水槽側 | 109 |
7 | 山側No.2H柱東側 | 113 |
8 | 山側出入口溝形鋼上部 | 81 |
9 | 山側出入口溝形鋼下部 | 73 |
2.4 まとめ
本施設は腐食環境としては厳しい環境に立地しており、また建設後16.5年を経過しているところから相当程度皮膜の劣化が予想された。しかし調査の結果からは外観的な変色はあるものの、残存皮膜厚さから全体として耐久性に関する問題はないことがわかった。ただし水槽の吐出ポンプ飛沫の影響を受ける部分は一部赤さびを生じており、溶接-補修塗装などによる補修を行っておくことが望ましい。