溶融亜鉛めっき後,塩化ゴム2回塗り塗装された,沖縄県の潮上橋(写真1)
溶融亜鉛めっき後,塩化ゴム2回塗り塗装された,沖縄県の潮上橋(写真1)

1.溶融亜鉛めっき上塗装を施す目的

溶融亜鉛めっきは,鉄鋼材料の防食皮膜として優れており,古くから様々な分野で使用されてきました。
溶融亜鉛めっき皮膜が耐食性に優れている理由としては,表面に緻密な薄膜が徐々に生成する「保護皮膜としての作用」があること,および電気化学的な「犠牲防食作用」があるためであります。
したがって,充分な厚みをつけた溶接亜鉛めっき鋼材は,そのまま使用されるのが一般的であります。
しかし最近では都市の美観,環境調和,標識や安全表示,およびアメニティを求める高級化指向のため溶融亜鉛めっき上塗装されることが増えております。
また,亜鉛めっき面は化学的に活性であり,しかも両性金属としての性質をもつため,酸やアルカリ雰囲気の影響を受け易いのであります。  特に海塩粒子の影響を大きく受ける海岸地帯で使用される場合,亜鉛めっきの長期の寿命を保持するためには,耐薬品性があり透水性の小さい塗装を施すことが良策であります。
亜鉛めっきの劣化が進み,腐食が鉄-亜鉛合金層にまで達すると黄褐色を呈するようになります。その後の亜鉛めっきの腐食を防ぐためには,この段階で塗装を行う必要があります。
しかし,亜鉛めっき表面に生成物の生じていない,できるだけめっき直後に適正な素地調整を行って,塗装するのが望ましいのであります。
今回は,溶融亜鉛めっき後に塗装される場合の主な留意点,仕様の例および実績例を中心にまとめます。

2.溶融亜鉛めっき上塗装の主な留意点

  1. 塗装前処理として,りん酸塩処理やスイープブラストなどを行えば問題はないが,これらの処理を行わず,直ちに塗装を行う場合は,亜鉛めっき表面の油脂分が塗膜の密着を著しく劣化させます。したがって,この場合は塗装前に完全に油脂分を取り除くことが必要であります。
    また,白さび一時防止処理として,水溶性アクリル樹脂などでコーティングすることがありますが,塗装されるものについては,塗膜の密着性が著しく低下しますので避けなければなりません。
  2. 溶融亜鉛めっき後,しばらく大気中で使用されて塗装される場合,通常白さびが発生しています。白さびの発生した上に塗装すれば,塗膜の下塗りから剥離しますので,白さびは完全に除去して塗装することが必要であります。 特に塩化物の付着している海岸地帯で使用されている場合は,充分な白さび除去が必要となります。
  3. 鉄-亜鉛合金層がめっき表面まで露出した「やけ」めっきは,表面が粗れており,アンカー効果のため,常乾タイプの塗装の場合は,密着性が良くなるといわれています。しかし,粉体塗装の場合は200℃程度で焼付けを行うため,「やけ」表面に付着している塩化物,水分などが気化し,塗膜を浮き上がらせ発泡することがあります。
    粉体塗装を行う場合,特に「やけ」めっき部分は,塗膜の発泡を生じる恐れがあります。したがって,めっき前に常乾塗装か粉体塗装か確認する必要があります。
    また,粉体塗装の場合は塩化物の付着をできるだけ少なく,合金層上の亜鉛層をできるだけ厚くするようなめっき方法が必要であります。
  4. 塗料には,塗装する場合の湿度などが各々定められています。
    常乾タイプの場合,塗装する際の気温も最低5℃以上必要とされていますが,冬場の気温の低いときは特に乾燥には注意をしなければなりません。  下塗り塗料が乾燥,硬化していないときに,中塗りあるいは上塗りを行えば,溶剤によって塗膜が膨潤し,密着性が著しく劣化することがあります。したがって塗膜の乾燥,硬化には充分注意して,中塗りあるいは上塗り塗装を行うことが必要であります。
  5. 最近,亜鉛めっき面の塗装系としては,エポキシ樹脂+ポリウレタン系樹脂の使用が多くなっています。これは,耐候性に優れているからであります。しかし,塗料によっては数カ月で塗膜と亜鉛めっき面の間で腐食が起こり,剥離することがあります。
    しかも剥離した面の亜鉛めっき皮膜が腐食され,赤さびを発生していることもあります。
    これは主にエポキシ樹脂が経時的に収縮歪を起こし,微細な亀裂を生じ,塗膜が破壊され,塗膜欠陥部より酸素および水分が浸透するためと考えられています。
    塗膜欠損部ではカソード反応が起こり,pHは12~13にも達し,亜鉛めっきが急速に腐食していくためであります。したがって,亜鉛めっき上にエポキシ樹脂を下塗りして行う場合には,塗料メーカーにもその旨を知らせ,内部応力緩和剤を適正に添加した塗料の使用が必要になります。
    また,新しいエポキシ樹脂を用いる場合は,塗装後1週間程度の経時的な密着性のチェックが必要になります。  なお,このような場合では素地調整として,りん酸塩処理かスイープブラストを行うことによって応力が分散され,塗膜の密着性が大きく改善されます。

3.めっき面塗装仕様

新設亜鉛めっき面と劣化亜鉛めっき面それぞれについて,厳しい環境での塗装仕様の例を示します。
塗装仕様の選択は,塗装の目的と周囲の塗装系との調和を考えて行うことが望ましいのであります。なお一般環境下ではのような3度塗りではなく2度塗りで充分である。

(1)新設亜鉛めっき面の塗装仕様
工程 塗料名 塗装
回数
塗装
方法
塗料使用量
(g/m2)
目標塗膜厚
(μm)
塗装間隔
(20℃)
素地
調整
りん酸塩処理またはスィープブラスト処理(ISO Sa 1)(SSPC SP-7) 4H以内
1D~10D
1D~10D
第1層 亜鉛めっき用エポキシ樹脂塗料下塗 1 スプレー 200(160) 40
第2層 エポキシ樹脂塗料中塗 1 スプレー 170(140) 30
第3層 ポリウレタン樹脂塗料上塗 1 スプレー 140(120) 26

※1.りん酸亜鉛の場合は,処理後2日以内に第1層目を塗装する。
※2.スィープブラスト処理は,サンドブラストとする。

(2)劣化亜鉛めっき面の塗装仕様
工程 塗料名 塗装
回数
塗装
方法
塗料使用量
(g/m2)
目標塗膜厚
(μm)
塗装間隔
(20℃)
素地
調整
表面に付着しているほこり,ゴミなどを清掃除去する。
油分の付着は脱脂清浄する。白さびは研掃タワシなどで除去し,赤さび発生部は電動工具でISO St3に素地調整する。
16H~10D
16H~10D
16H~10D
補修塗 変性エポキシ樹脂塗料下塗 (1) はけ 200 (50)
下塗 変性エポキシ樹脂塗料下塗 1 はけ 200 50
中塗 エポキシ樹脂塗料中塗 1 はけ 140 30
上塗 ポリウレタン樹脂塗料上塗 1 はけ 120 25

4.腐食性環境下における溶融亜鉛めっき上塗装の実施例

(1)海岸に近い場所に設置された例

写真1~2は,沖縄県国頭郡東村平良の県道の「潮上橋」で,昭和50年に架設されたものである。太平洋沿いの平良湾に面しており,海岸から10m位の所に架設され,吹き付ける海砂および海塩粒子のため,環境としては非常に厳しい場所であります。

写真2 溶融亜鉛めっき後、塩化ゴム2回塗り、塗装された潮上橋の高欄
写真2 溶融亜鉛めっき後、塩化ゴム2回塗り、塗装された潮上橋の高欄
写真3 東京湾横断道路に使用された地中線立金物部材 溶融亜鉛めっき後,りん酸塩処理をしてエポキシ粉体塗装を施されている。
写真3 東京湾横断道路に使用された地中線立金物部材
溶融亜鉛めっき後,りん酸塩処理をしてエポキシ粉体塗装を施されている。

主桁,対傾構,横構など橋梁部材および高欄は溶融亜鉛めっき後,塩化ゴム系塗料2回塗りされています。
昭和56年の調査では,海岸に面した外桁の塗膜の一部には,吹き付ける海砂のため剥離している部分がありました。しかし,下地の溶融亜鉛めっき層は200μ以上あり,健全なものでありました。添接板およびボルトは亜鉛めっきされてなく,塗料が剥離し著しいさびが発生していました。
現在の溶融亜鉛めっき橋梁はF8Tのボルトを用い,添接板とも亜鉛めっきされていますが,その当時はF11Tのボルトを用い,遅れ破壊の恐れがあるため,ボルト,添接板とも黒材を用いたものであります。高欄の塗膜も一部剥離している部分はありましたが,下地の溶融亜鉛めっき層は100μ程度ありました。
昭和58年頃,部分的な再塗装が行われました。平成5年の調査では,各部材とも塗膜の剥離もなく正常な状態であり,今後充分な耐用が期待できます。
溶融亜鉛めっき上塗装された部材の再塗装の利点としては,部分補修が可能でありケレン等の作業が非常に簡易である事があげられます。
写真3は東京湾横断道路に使用された,地中線立金物部材であります。長期の耐用を必要とするため溶融亜鉛めっき後りん酸塩処理を行い,エポキシ粉体塗装(100μ以上)を行ったものであります。なお,検査用の歩廊は高耐食性のAl-Zn合金めっきを行っている。
写真4は徳島市の海に近い広場(アスチィー徳島)に設置された柵であります。溶融亜鉛めっき後,下塗りはエポキシ系50μ,上塗りにウレタン系30μの塗装を行ったものであります。

写真4 徳島市の海浜広場に設けられた柵 溶融亜鉛めっき後,下塗りはエポキシ系で,上塗りにはウレタン系の塗装を施されている。
写真4 徳島市の海浜広場に設けられた柵
溶融亜鉛めっき後,下塗りはエポキシ系で,上塗りにはウレタン系の塗装を施されている。

(2)化学薬品の影響を受ける場所に用いられた例

肥料工場などで用いられる場合は,硫酸アンモニウムや硝酸アンモニウムなどの粉末の影響を受ける場合があります。これらの粉末も乾燥した状態であれば亜鉛と反応しませんが,建屋部材の上に堆積され,露をむずぶような場合には亜鉛と反応を起こします。したがって,このような雰囲気の所では亜鉛めっき後,塗装されるのが良策と考えられます。
写真5は大阪府八尾市にある,溶融亜鉛めっき工場の建屋部材であります。この建屋部材は昭和62年に溶融亜鉛めっきされ,りん酸塩処理後直ちに常乾タイプのエポキシ系樹脂2回塗りされたものであります。溶融亜鉛めっきの前処理として用いられる塩酸ミストの影響を受ける位置ながら,8年間経った現在でも健全な塗膜の状態であります。  このような環境の場合は特に,亜鉛めっき後,生成物が発生しない,できるだけ早い時期に適正な塗装を施すことが必要であります。

写真5 溶融亜鉛めっき工場の建屋部材 溶融亜鉛めっき工場の建屋部材 溶融亜鉛めっき後,りん酸塩処理を行い,エポキシ系の溶剤塗料を2回塗りしたものである。
写真5 溶融亜鉛めっき工場の建屋部材
溶融亜鉛めっき工場の建屋部材 溶融亜鉛めっき後,りん酸塩処理を行い,エポキシ系の溶剤塗料を2回塗りしたものである。