1.はじめに
一般に重工業地帯は硫黄酸化物の排出量が多く,亜鉛めっきの腐食量も多いとされていた。
しかし,最近では燃料としては重油からガス化へ進み,重油を使用する場合でも公害規制により脱硫装置を設けたり低硫黄の重油を使用するなどの対策がとられ,大気中での硫黄酸化物濃度が極めて低くなっている。
従って昭和39年から暴露試験を行っている同一場所で昭和62年11月から新たに暴露試験を開始し,最近2カ年間の重工業地帯での亜鉛めっき腐食減量を求めたものである。
2.調査方法
2-1.暴露場所
重工業地帯(神奈川県川崎市内鶴見工業高等学校校舎屋上)
2-2.暴露期間
昭和62年11月~平成元年11月,2カ年間
2-3.試験片
標準めっき(付着量約400g/m2) | 試験片 | 各2枚 |
---|---|---|
厚めっき(付着量約600g/m2) | 試験片 | 各2枚 |
やけめっき | 試験片 | 各1枚 |
2-4.腐食減量
腐食減量は以下の式により算出した。
腐食減量(g/m2/年)=W1-W2@S×Y×10
W1:試験片暴露前重量(g)
W2:試験片暴露後重量(g)
S:試験片全表面積(m2)
Y:暴露期間(年)
注)暴露試験片重量は,10%塩化アンモニウム溶液に30分浸漬し,表面の腐食生成物を除去した後,測定した。
3.調査結果
各試験片の腐食減量を表-1にまとめた。
4.まとめ
- 溶融亜鉛めっき(標準めっき,厚めっき)の腐食速度は昭和39年~44年度の約1/4に減少している。
- やけめっきの耐食性は通常のめっき(標準めっき,厚めっき)よりやや腐食速度が大きい傾向を示した。
表-1及び表-2から,本暴露地点における腐食減量は大きく減少していることがわかる。これは,図-1からわかるように,昭和39年当時に比べて,現在の大気中の硫黄酸化物濃度が,昭和43年頃からの公害規制の強化により,減少したためと思われる。
- 溶融亜鉛めっきの外観は標準めっき及び厚めっきとも全面にスパングル模様を呈していたが,腐食生成物の発生,汚染物質の付着も軽度であった。
また,溶融亜鉛やけの外観は若干黄味の腐食生成物の発生が認められる程度であった。(昭和39年~44年度の外観は全面に汚染物質の付着が著しい)
- 重工業地帯における亜鉛めっきの推定耐用年数
2カ年間の大気暴露試験から推定耐用年数を算出した数値を表-3に示す。
試験片 | 期間 | 腐食減量 | ||
---|---|---|---|---|
(年) | g/m2/年 | 平均値 | ||
標準めっき | 1 | 7.31 | 7.77 | 7.54 |
2 | 7.94 | 7.82 | 7.88 | |
厚めっき | 1 | 8.22 | 8.45 | 8.34 |
2 | 8.15 | 8.28 | 8.22 | |
やけめっき | 1 | 10.12 | 10.12 | |
2 | 10.92 | 10.92 |
めっき状態 | めっき浴 | 腐食減量 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
温度(℃) | g/m2/年 | 平 均 値 | ||||||||
標準 | 445 | 34.4 | 33.8 | 33.6 | 33.90 | |||||
475 | 34.4 | 34.5 | 35.3 | 34.70 | ||||||
やけ | 494 |
|
30.30 |
試験片 | 腐食減量(g/m2/年) | 推定耐用年数(年) |
---|---|---|
標準めっき | 7.88 | 45.7※ |
厚めっき | 8.22 | 65.7 |
やけめっき | 10.92 | 49.5 |
※標準めっきの亜鉛付着量は400g/m2とし,厚めっき,やけめっきは600g/m2として,その90%が消滅した時点で赤さびが発生するものとして,次の式より推定耐用年数を計算した。
亜鉛付着量(g/m2)/腐食減量(g/m2/年)×0.9=亜鉛めっき皮膜の推定耐用年数